お気に入りブログ
検索
以前の記事
2023年 08月 2022年 11月 2022年 06月 2021年 10月 2021年 01月 2020年 08月 2020年 05月 2020年 03月 2019年 11月 2019年 05月 2019年 04月 2019年 01月 2018年 10月 2017年 05月 2017年 04月 2017年 03月 2017年 02月 2017年 01月 2016年 11月 2016年 10月 2016年 09月 2016年 08月 2016年 07月 2016年 06月 2016年 05月 2016年 04月 2016年 03月 2016年 02月 2016年 01月 2015年 12月 2015年 11月 2015年 10月 2015年 09月 2015年 07月 2015年 06月 2015年 05月 2015年 04月 2015年 03月 2015年 01月 2014年 12月 2014年 11月 2014年 10月 2014年 09月 2014年 08月 2014年 07月 2014年 06月 2014年 05月 2014年 04月 2013年 10月 2013年 09月 2013年 05月 2013年 03月 2013年 01月 2012年 10月 2012年 08月 2012年 06月 2012年 02月 2011年 12月 2011年 11月 2011年 10月 2011年 08月 2011年 06月 2011年 05月 2011年 03月 2011年 02月 2010年 12月 2010年 10月 2010年 09月 2010年 08月 2010年 05月 2010年 01月 2009年 12月 2009年 09月 2009年 06月 2009年 03月 2009年 02月 その他のジャンル
記事ランキング
ブログジャンル
画像一覧
|
2012年 06月 01日
今までアメリカン・ニューシネマはたくさん観てきたと思っていた。 だが全然そうではないことを思い知らされた。 「アメリカン・ニューシネマ-反逆と再生のハリウッド史-」(2003)は多くの俳優や監督にインタビューしたドキュメンタリー映画だが、その中で多くの監督がカサヴェテスの「Faces」('68)から影響を受けたと語っていた。 さっそく渋谷のTSUTAYAに行ってヴィデオを借り、観た。 驚いた。 次にやはり何人かの監督が語っていた「こわれゆく女」('74)のヴィデオを借り、観た。 再び驚いた。 そして私はカサヴェテスをこれまでちっとも正確には理解していなかったことを知った。 カサヴェテスが監督した映画で初めて観たのは「グロリア」('80)だった。 あのリュック・ベッソンの「レオン」('94)の原型と言われる奴だ。 その真偽はともかく、確かにスリリングでよくできた映画だと思う。その出来が良い分だけ私はカサヴェテスを腕のいいエンターテイナーの監督だと思い込んでしまった。 そしてそれっきりになった。 私は深いドラマ性に惹かれて映画を観ることはよくあるが、エンターテイメント性うんぬんに惹かれて観るということはまずない。だから世間の評価とは違って、スピルバーグには惹かれない。 ところが「Faces」はまるで違っていた。 白黒のフィルムにハンディカメラの荒い粒子、画面は流動的でピントも合っていない。 俳優の台詞も現場で決められた、ほとんどアドリブのように聴こえる。 見ようによっては素人の映画のようだ。 だが観ていて決定的に何かが違う。 技術が稚拙な分だけ監督の言いたいことが生々しく伝わって来る。 現代の中年夫婦が抱えている問題とそれが崩壊して行く様をまるでドキュメンタリーフィルムのように撮っている。その結果、愛と孤独の物語がシリアスに浮かび上がってくる。 つまり、これはそれまでの('68年以前の)映画には無かったタイプの映画だ。 題名通り、顔のUPが多いのも独特で、強い印象を残す。 「こわれゆく女」はそれをさらに深めたような映画だ。 色はカラーになったが、相変わらず技術的な稚拙さには御構い無しで、それ以上に内容に肉薄することに賭けている。 扱っているテーマもやはり現代の夫婦の愛と孤独で、繊細過ぎるが故にこわれていく女(ジーナ・ローランズ)と、それを何とか食い止め回復させようとする男(ピーター・フォーク)をカメラは冷酷に記録していく。 そして特別な映画ができ上がった。 だが、このような特別な映画を多くの人が観るとはとても思えない。 アンチ・コマーシャルで撮りたいものだけを撮るという道を選んだために、カサヴェテスと(彼の妻である)ジーナ・ローランズは途方も無いことを始めた。 二人が俳優で得たすべての金をつぎ込み、足らないと自分達の家を抵当に入れて映画を撮った。出演者は皆友達でノーギャラだった。 「Faces」では皆が食いぶちの仕事を終えた後、カサヴェテスの自宅に集まり、そこをスタジオに夜中に撮影された。そのため撮影、編集に3年以上の時間を要した。 「こわれゆく女」では俳優が足らないと自分達の母親や子供を使い、出演者のピーター・フォークに至っては「刑事コロンボ」で得たギャラをすべてつぎ込んだ(彼も相当な筋金入りの映画人だ) つまり彼らは後にインディペンデント映画と呼ばれるようになったやり方で自分達を全うすることに賭けた。 今でこそ、映画や音楽の世界でインディーズはもてはやされているが、この当時の、しかもハリウッドに楯突いたやり方では、たとえ映画は完成しても配給元は容易に見つからなかっただろう。 日本ではなおさらのことだ。だからカサヴェテスは商業的にヒットした「グロリア」以外あまり知られていない。 こうしたことを知ってもう一度「グロリア」を観直すと、違ったものが見えて来る。 ここでのジーナ・ローランズはタフでお洒落で実にカッコイイ。 (いつもウンガロの衣装を身にまとい、拳銃を派手にぶっ放す) それはカサヴェテスがそういう風に脚本を書き、そういう風に撮ったからだ。 俺だって、撮ろうと思えば商業映画の1本や2本、軽く撮れるぜ!という自負と共に、これまでそうした世界ではない世界で一緒に苦労して来てくれた同志への感謝と尊敬、そして深い愛情を感じる。 この映画はヴェネツィア国際映画祭で金獅子賞を受賞した。 それはたぶん、世界の映画人たちからの、二人への尊敬と感謝、そして援護射撃だったのだろう。 ジーナ・ローランズとジョン・カサヴェテス。 本当に凄い夫婦だ。 こんな奴らは滅多に出てこない。 幸福だなと思う。 かずま
by odyssey-of-iska2
| 2012-06-01 23:07
|
ファン申請 |
||