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2015年 04月 12日
先日、親友のSから早い誕生日プレゼントで「永遠のハバナ」('03)のDVDを貰った。 原題は「Suite Habana」(ハバナ組曲)で、ハバナの音楽ドキュメンタリーと言えば「ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ」('99)だから、少し期待して観た。 結果は、さりげない日常を描いているが、作為的な映像(顔のアップや、意図的な構図)が多いので、ドキュメンタリーというよりはある種の映像詩と言った方がいいかもしれない。 観ていて、もっと作為のない、不思議な映像詩を思い出した。 ヴィクトル・エリセの「マルメロの陽光」('93)だ。 この映画は実在の画家アントニオ・ロペス・ガルシアが庭になるマルメロの樹を1990年の9月から12月まで写生する姿を淡々と撮った、ドキュメンタリーのような映像で、彼の妻でもある画家のマリア・モレノ、娘のマリアとカルメン、友人の画家エンリケ・グランも登場し、その会話や素振り、アトリエの改修工事の音など、すべてが日常性の中に溶け込んでいて、どこからどこまでが真実で、どこからどこまでが打合せをして撮られた映像なのか、さっぱりわからない不思議な映画だ。鉛筆がキャンバスを滑る音や風が木陰を抜ける音が聴こえ、映像は一見単調だが繊細で美しい。 結局、今年もマルメロの実は熟して腐ってしまい、画家はそれを写し取ることを断念し、妻の絵のモデルになり、そして眠ってしまう。翌年の春、マルメロの樹は新春の光の中で再び実を実らし始める。 実はこうしたことを毎年繰り返しながら画家はその対象へ少しづつ迫っていくのだが、それが淡々と描かれているので、その絵がいつ完成するのかは誰もわからない。 実際のロペスの絵もそうで、20年以上掛けて完成した絵もあるというのだから驚く。 これは監督のエリセにも言えて、彼は「10年に1本しか撮らない映像作家」と言われてきたが、実は長編第3作目のこの映画を撮ってから22年間長編映画を撮っていない。 たぶん、ロペスとエリセは悠久の時間の中を生きていて、「なぜそんなにあわてて不完全な真理でもないものを世に出すのだ?」と言ってるのかもしれない。 この映画を観ていて、手を加えることを最小限に押えることで逆にオリジナルなアートとして成り立たせている作品を他にも思い出した。 たとえば、音楽ではリュック・フェラーリの「Presque rien」(ほとんど何もない)('70)だ。 これは正確には「Presque rien No. 1 ‘Le Lever du jour au bord de la mer’」(ほとんど何もない 第1「海岸の夜明け」)と言い、ユーゴスラビアの海辺で録音した音だけで構成された環境音楽だ。 最初はほとんど何も聴こえないが、やがて人の話し声や何かのぶつかる音が聴こえ、船のエンジン音がそれにかぶり、さらに蝉の鳴き声がかぶり、それに人の話し声や歌声が再び加わり、最後は蝉の鳴き声だけが壮大に響いてふっと終わる。21分に渡る海辺の日常を捉えた音楽(というか音の情景)だ。 アートではリチャード・ロングの仕事が浮かぶ。 ロングは自然の中を歩いて自分の足跡や、現場に落ちている石や木々を用いてささやかなモニュメントをつくり、それを写真に撮って自分の旅の痕跡を記録する。モニュメントは言われないとわからないほど自然と同化していて、やがて時間と共に自然に還っていく。 彼の作品はアース・ワークと呼ばれるが、それはある意味とても東洋的で、現代社会の過剰な消費文明への警鐘を鳴らしているかのようだ。 これらを建築に当てはめ、その究極を追いかけていくと、最終的には「デザインしないデザイン」「つくらないつくりかた」ヘ行き着く。果してそれが平和な世界なのか、不幸な世界なのかは私もわからない。 エリセの作品は最初に観た「ミツバチのささやき」('73)から常に静謐で内省的で、観終わった後、いつも深く心に残る。 果して「マルメロ…」の次の長編映画を彼が撮るのか撮らないかはわからないが・・・その先にどんな映画が待っているのか、果してそれは平和な世界なのか、不幸な世界なのか、ファンとしてはどうしてもそれを観てみたい。 かずま
by odyssey-of-iska2
| 2015-04-12 23:31
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