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2017年 01月 31日
![]() こんなに激しく、魂を奪われる映画は滅多にないだろう。 私は京劇のファンでもなければ、中国の現代史に関心のある者でもなく、ましてや同性愛に興味のある者でもない。だが、それらを超えて、観る度に心を深く揺さぶられる。 物語の舞台は1924年から77年までの現代中国で、時代に翻弄される二人の男の出会いから別れまでが描かれている。また、一人の女をその間に置くことでさらに陰影濃くパースペクティブに描かれている。 まず始まりの、京劇の一座に多指症の我が子の指を切って預ける母親の凄まじい行為に驚くと共にハートを鷲掴みにされる。 少年は女郎の子と仲間から馬鹿にされるが、ただ一人、小石頭だけが彼を守り、少年はいつしか彼に思慕の念を抱くようになる。 この少年の表情がいい。そして自分のために罰を受けて外の雪中に立たされ、強がりを言いながら戻って来る小石頭に毛布を掛け、肌で温め一緒に寝る。 二人は京劇の師匠から猛特訓を受け、やがて頭角を表す。 この成長期の子役もいい。細面で女形がよく似合う。 そして真打ちのレスリー・チャンだ。 この映画はレスリー・チャンの映画だと言ってもいいくらい、乗り移ったかのような演技を彼はしている。所作が細やかで美しく、劇中の女形を超えて、本当に女になってしまったかのようなのめり込み様だ。 だが、どこまで行っても本当の女にはなれない蝶衣(レスリー・チャン)は母と同じ女郎あがりの菊仙(コン・リー)に小楼(チャン・フォンイー)を奪われ、やがて二人は結婚してしまう。取り残された蝶衣は阿片に染まって行く。(後に阿片中毒を断つ時のレスリー・チャンの迫真の演技は凄まじい!) 時代は満州事変、日本の中国進出、国民党の奪回、共産党政権の誕生と続き、時代の荒波に揉まれながら、三人は微妙な関係を保ち続ける。そしてクライマックスの文化大革命の人民裁判シーンでこの映画の頂点を迎える。 広場に連れ出された小楼は苦しさのあまり蝶衣や菊仙の過去を暴き、そして蝶衣も小楼や菊仙の過去を暴く。(このシーンは観ていてあまりに悲痛で、涙が出て来る) 菊仙はそのショックから、首を吊って自殺する。 最後はそれから11年後の、残された二人が久しぶりに「覇王別姫」を演じるシーンで、蝶衣も劇中の虞姫と同じく剣で自分を刺して死ぬ。 蝶衣は結局、少年の頃に抱いた純粋な思いや、自分自身を支えてくれた京劇への思いを最後まで全うし、殉じる。強くて真っ直ぐで激しい生き方だ。 それに比べ小楼は欲望に弱く、時には豹変し、ある意味人間的だが、蛇行しながら流され続ける。劇中では覇王で男性的だが、心はそうではない。 菊仙は狡猾で交渉ごとにも長け、男勝りのたくましさを備えた女だが、蝶衣への尊敬や気遣いも忘れず、可愛い所もある。だから最期が余計不憫でならない。 脇役や小道具の隅々まで意味が込められ、手抜きがない。また、それらが絡み合うよう構成されているので、とても重層的だ。 私が驚くのは、この映画が香港・中国の合作であるにも関わらず、日本の軍人をこれまでのようにステレオタイプ化して描くのではなく、むしろその後の国民党軍の方が品の無い行為をしたとする下りだ。また、青木(日本の軍人の長)がそのまま生きていたら、彼は(中国の文化を理解し)必ず日本に京劇を持ち帰ったろうと主人公(蝶衣)に言わせるシーンだ。文化大革命のシーンでは自らの歴史をも断罪する。 こうした従来の中国映画とは異なる歴史の描き方があるからこそ、薄っぺらでなく厚みと説得力がある。 同じ時代の中国を扱った映画に「ラストエンペラー」('87)があるが、それは西洋から見た中国で、どこかエキセントリックな物語だったが、この映画は内から見た中国で、重くて深い。3時間があっという間に過ぎて行った。 「覇王別姫」 アジア人にしか描けない圧倒的な映画だ。 かずま
by odyssey-of-iska2
| 2017-01-31 20:34
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