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2021年 01月 31日
正月休みを挟んだ一月、新海誠のアニメを全て観た。 「秒速5センチメートル」「言の葉の庭」「彼女と彼女の猫」が気に入った。 これらの作品はSFやファンタジーではなく、日常性を扱った、小説をアニメに置き換えたような作品だが、従来のアニメとは違って、都会や自然の緻密な描写と動き、登場人物の心の揺れ動きが独白で繊細に語られ、新鮮だった。 中でも「秒速5センチメートル」はこうした特徴がよく表れている。 物語は小学生の貴樹と明里の何気ない会話から始まる。 桜の花びらの落ちるスピードが秒速5センチメートルだと言って、散る花びらの中を走り去る明里を貴樹が追いかけるファーストシーンは、繊細で美しいと同時に、物語全体を暗示していて象徴的だ。 小学校卒業と共に明里は親の転勤で栃木に移り住み、二人はバラバラになる。 やがて貴樹も親の転勤で鹿児島に引越すことになり、その冬、二人は栃木で会う約束をする。 この貴樹が明里に会いに行く日のシーンはとても魅力的だ。 まず、雪がちらつき始める中、小田急線の豪徳寺駅から新宿に向かう車窓の外の何気ないシーンに参ってしまう。目線の位置にある電線が電車のスピードに乗って生き物のように動くのだが、小田急線利用者の私が毎日見ている光景が(気の遠くなるような努力で)このようにアニメで再現されると、初めて見る光景のようにハッとさせられる。 その繊細な外部の描写と感情の起伏の移り変わりは新宿、大宮、久喜、小山、終点の岩舟まで続く。雪による電車の遅延で明里をずっと待たせることへの落胆と悲しみが観る者へ丁寧に伝わってくる。だから、岩舟駅の待合室で深夜に明里と会えた時の静かな深い感動は、観る人すべてに共有される。 物語は次に種子島での、貴樹の高校最後の夏に移る。 だが、ここでの主人公は貴樹ではなく、彼に思いを寄せる花苗だ。 彼女の独白で二人の微妙な関係がわかるが、その接点はどこまで行っても交わらない。その切ない思いは誰もが一度は経験したことがあり、共感を覚えるものだが、貴樹は遠くを見つめるだけで、しかもいつもとても優しい。 貴樹の後を泣きながら歩く花苗達の目の前で、突然、轟音と噴煙を上げながら、宇宙センターの発射台から打ち上げられたロケットが去っていく。その瞬間、花苗は二人のこの距離感はこれからも変わらないだろうが、自分はずっと貴樹のことを好きだろうと悟る。 花苗は人生の長い道のりに咲く一輪の花のように愛しい。 物語は最後に東京での、貴樹の慌しい社会人生活で終わる。 3年間付き合った理紗とも別れ、働く目標も見失い、会社を辞めたある日、桜を見に小学校時代通った辺りに行く。踏切ですれ違った女性に何かを感じ、振り返るが、やってきた小田急線の列車が遮り、過ぎ去った後に女性はいなかった・・・ 人生の機微や心の動きを丁寧にすくい上げた、アニメの形を借りた映画だ。 3つの話にはそれぞれ、「桜花抄」「コスモナウト」「秒速5センチメートル」のタイトルが付けられ、短編連作の形を採っているが、貴樹を通した一つの物語となっている。特に最初と最後は(独白が貴樹で)つながりが強く、そこに少し異なる「コスモナウト」(独白は花苗)が挟まれることで、話に単調さやベタつきがなくなり、変化や奥行きも出て、成功している。 貴樹の心には中1の冬の明里との再会の記憶がいつまでも残り、その後の花苗や理紗との恋愛にも深く影響を及ぼす。(だが、明里は別の男と結婚する) この作品以外にも言えることだが、新海誠のアニメのエンディングは単純なハッピーエンドではなく、別れや喪失感、そこからの旅立ちが多く、どこかほろ苦い。 それは小説を一冊読み終えた後の感覚に近く、子ども向けアニメやジブリのアニメの終わり方とは大きく異なる。 実際、登場人物の独白にしても「僕たちの前には、未だ巨大過ぎる人生が、茫漠とした時間が、どうしようもなく横たわっていた」と書き言葉で語られるケースが多い。(彼はアニメ公開後にそれを文字に置き換えさらに補った小説を残してもいる) こうした傾向は初期の「彼女と彼女の猫」から既に始まっていて、興味深い。 「君の名は。」や「天気の子」もいいが、よりリアルな日常性を題材としながら、都会や自然の繊細な描写や動き、人の心の揺らめきを丁寧に写し取るところに新海誠の独創性とすばらしさがあると思う。 そういう作品をこれからもたくさん観たい。 かずま
by odyssey-of-iska2
| 2021-01-31 23:50
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