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2016年 09月 26日
ロバート・アルトマンは私の最も敬愛する監督の一人だが、その理由は、「ナッシュビル」('75)で確立したジャージーでアバウトな群像劇の魅力を多くの映画で余すことなく再現してくれたからだ。 私はこれまでアルトマンの映画を8作品観た。(中には何回も観た映画もある) 「M☆A☆S☆H」('70) 「ロング・グッドバイ」('73) 「ナッシュビル」('75) 「ポパイ」('80) 「ザ・プレイヤー」('92) 「ショート・カッツ」('94) 「プレタポルテ」('94) 「今宵、フィッツジェラルド劇場で」('06) このうち「ロング・グッドバイ」と「ポパイ」は主人公は明白だが、それ以外はほぼ群像劇と言える。しかも脇役も含めてアドリブが豊富で、その奏でるデタラメな映画の音色は、私にはほとんどジャズにしか聴こえない。 彼がなんでこんなデタラメな(この言葉は私にとって最高と同じ意味だ)映画を撮る(撮れる)ようになったのか、その秘密が知りたくて、このドキュメンタリー映画を観た。 アルトマンは1925年にカンザスシティ(カウント・ベイシーやチャーリー・パーカーを生んだジャズの都だ!)で生まれ、第ニ次世界大戦で空軍に志願し、戦後はカリフォルニアで映画業界に(撮ったこともないのに撮れると嘘をついて)潜り込み、実際の現場で映画のつくり方を覚えていく。 こういうどこか如何わしくデタラメな所と身体感覚はいかにもアルトマンらしい。 60年代は「コンバット」(第ニ次世界大戦下でのアメリカ陸軍歩兵連隊の活躍を描いたTVシリーズ)を演出し、それはやがて「M☆A☆S☆H」('70)につながる。 「コンバット」は小学生の頃観ていたが、あまり記憶にない。が、「M☆A☆S☆H」は明らかにクレイジーで破茶滅茶な、戦争批判映画だ。 空軍体験→「コンバット」→「M☆A☆S☆H」と大きく変わって行く理由はこのドキュメンタリーではわからないが、多分、アルトマン自身、戦争のバカバカしさや矛盾を強く感じ、大きく舵を切ったのだろう。(もちろん、当時のベトナム戦争のバカバカしさや厭戦気分も大きく影響しているとは思う) この時得た、社会の規範から逸脱していく感覚、マジョリティーよりむしろマイノリティーに結び付いていく感覚は、その後のアルトマンにとってとても大きかったろう。 エリオット・グールドがフィリップ・マーロウを演じた「ロング・グッドバイ」('73)は、それまでボギーやロバート・ミッチャムが演じた物とは大きく違って、けしてカッコ良い探偵ではない。にもかかわらず、一番肉感的にフィリップ・マーロウを感じる。 (さらに驚いたのは、チャンドラーの原作とは違って、最後にマーロウがテリーを撃ち殺してしまう所だ。アルトマンにとって原作は単なる譜面で、それをどう演奏するかはこちらの勝手なのだ。ジャズと同じだ) そしてアルトマン映画を決定的に確立した「ナッシュビル」('75)だ。 この映画は音楽の都ナッシュビルを背景に政治を風刺したもので、主なキャラクターだけで24人いる。それぞれのストーリーがうごめきながら幾層にも重なり、やがてそれらが束ねられて大団円を迎えると思いきや、最後に突然の銃声で空しく壊れる。 ナッシュビルが舞台なので歌うシーンはたくさん出てくる(中でもキース・キャラダインの唄う「I'm easy」は名曲だと思う)が、ミュージカルではないので、歌でダレるということはない。 この映画を撮るにあたり、アルトマンは脚本家に前もってナッシュビルに調査に行かせ、その時実際にあった事故なども映画の一部に用い、カメオ出演で多くの俳優を使い、どこまでが本当でどこからが嘘かわからない虚実皮膜の映画を創り出した。 こうした事実を(アルトマン自身の説明はあるが、)それ以上切り込んで創造の秘密を解き明かす所までは、このドキュメンタリーは行っていない。 反対に多くの俳優や監督に「アルトマネスク(アルトマンらしさ)とは?」と質問して、それを「現実をありのままに描写 社会批判的 ジャンルの転覆」「ありきたりな規範に逆らう」「破壊不能なこと」と定義づけているが、こうした定義づけこそアルトマン本人が一番嫌っていたものでは?と、訝ってしまう。 アルトマンファンとしては喰い足りない所の多いドキュメンタリー映画だが、初めてアルトマンを知る人にはイントロくらいにはなるだろう。 観終わった後、久しぶりに「ロング・グッドバイ」を借りて観た。 揺れるカーテンの向こうに海が見えるシーンやタバコの煙、猫の使い方など、これまで気づかなかった意外なくらい繊細なアルトマンを感じた。 アルトマンらしさとは、自分自身を裏切りながら常に前に進む精神だと私は思う。 かずま #
by odyssey-of-iska2
| 2016-09-26 10:21
2016年 08月 20日
この映画はたまたま家の近くのレンタルショップでDVDを見かけ、何の予備知識も無しに観た。そして深く感動した。もう20年以上前の話だ。 好みで言えば、同じ不条理に閉じ込められる劇でも「カッコーの巣の上で」の方が好きだ。(私はアメリカン・ニューシネマで育ったので、ハッピーエンドよりグレーなエンディングの方を好む) ただ、そういう偏屈な人間でも感動する普遍的な良さが、この映画にはある。
つまり、この映画にはHope(希望)がある。(最後はちょっとカッコよ過ぎるが・・・) ショーシャンク刑務所に妻と愛人殺しの罪でアンディ(ティム・ロビンス)がやってくる。そしてムショ暮らしの長いレッド(モーガン・フリーマン)と仲良しになる。 アンディは若くして銀行の副頭取にまでなった有能な人物で、人殺しはしていず、無実だ。だが、そういう状況下でも前向きに生きていこうと、刑務所内の図書館の充実や、自分の能力を発揮して所長や刑務官らの税務処理、資産運用のアドバイスをおこない、一目置かれるようになる。そして無学なトミーに勉強を教え、高校資格を得るまでに育てる。 だがある日、自分が無実である証拠をトミーから聞かされ、所長に再審請求を頼み込むが、逆にそれでトミーは消され、アンディは脱獄を決意する・・・ 好きなシーンはたくさんあるが、送られてきた古い書籍の中からアンディが「フィガロの結婚」のレコードを見つけ、図書室に鍵をかけてそれを聴きながら刑務所内に放送で流すシーンは優雅で愉快でとても好きだ。自由が支配に打ち勝つ瞬間だ。 レッドとアンディが再び出会う切っ掛けとなる大きなオークの樹の下のエピソードもなかなかおもしろい。 また、刑務所内で休憩中にアンディがぼんやりレッドに言う “記憶のない海” の話は、当時、交通事故で高次脳機能障害になり記憶がどんどん失われていく父親を看ていたので、忘れられない言葉だ。 “You know what the Mexicans say about the Pacific? They say it has no memory. That's where I want to live the rest of my life. A warm place with no memory.” (メキシコ人が太平洋を何て言うか知ってるかい? “記憶のない海” って言うんだ。 余生はそこで過ごしたい。 温かさに包まれながら、嫌なことはすべて忘れて) ティム・ロビンスは大柄なのに知性とナイーブさが感じられ適役だが、それにも増してモーガン・フリーマンが独特のいい味を出し映画を引き締めている。 監督のフランク・ダラボンはまったく知らなかったが、これが長編映画第一作とは思えない完璧さで驚きだ。新しいDVDには彼の解説も入っているので、それを聞きながら観るとまた違った発見もあり、おもしろい。 気分が落ち込んだ時、勇気が欲しい時にぜひ観て欲しい。 かずま #
by odyssey-of-iska2
| 2016-08-20 16:16
2016年 07月 20日
その映画を好きか嫌いかはその人の人生経験や記憶が大きく作用している。 そう考えるようになったのは、大学院時代、研究室で私の映画の師匠のAとヌーヴェルヴァーグについて話をしていた時、彼が「トリュフォーの思春期」('76)は全然おもしろくなかったと言ったからだ。 実は私にとってトリュフォーのこの映画はツーンと来る映画だった。 特に、ジプシーの身なりをした少年が転校生でやってきてみんなとわんぱくをするが、ある日の身体検査で彼の身体に無数の傷跡が見つかり、家での虐待が明るみになるシーンでは深い胸騒ぎがした。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 私は幼い頃、長崎でジプシーの兄妹と遊んだことがある。 昭和34、5年の、まだ原爆の傷跡が残っていた頃だ。(正確には近所の大人達が「あれはジプシーだ」と言ったからそう思ってるだけで、本当かどうかはわからない) ある日、私が住んでた町の山裾に掘っ建て小屋ができ、そこにある一家が住み着いた。 見たら、私とほぼ同じ年頃の、背格好も同じくらいの兄妹が遊んでいる。何の危惧も感じず一緒に遊んだ。 ある日、家に招かれ、ムシロでできた扉を開けてびっくりした。床が土のままで、所々に材木片が敷き詰められ、寝られるようにはなっているが、子供心に、この人達は大変な暮しをしているのだと思った。 すぐに家に帰って台所にあった大きな砂糖壷を抱えて再び戻り、新聞紙の上にぶちまけ、さあ、これを食べてと言って、壷だけ持って家に帰った。(なぜそんなことをしたのか、理由はわからない) 戻ってきた母親が壷の中を見てびっくりし、これを全部舐めたのか!と猛烈に叱られたが、黙ってしらをきり通した。(おかげで晩ご飯抜きにされた) だが、ある日、台風がやって来て、それが去った後、忽然と掘っ建て小屋は消え、家族も消え、兄妹の消息はわからなくなった。(大人達は隣町へ移ったらしいと言ってた) とてもショックだった。未だにその記憶は忘れられない。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ だから初めて「泥の河」を観た時もツーンと来た。 最後の、主人公の少年が「きっちゃん」「きっちゃん」と郭舟を追いかけるシーンでは涙が止まらなかった。 だが、今の人が観てもそういう反応はしないだろう。時代が違うし、感性も違う。 平和だな、と思う反面、何かが失われてしまったと思わずにはいられない。 この映画には人情がある。 それを最も良く表しているのは、川べりでうどん屋を営む主人公の少年の両親で、田村高廣と藤田弓子が実にいい味を出しながら演じている。だから哀しい内容の話にも関わらずペーソスと温かさが常に底に流れている。 最後に少年はきっちゃんの残酷な遊びを止めようとして、この一家の秘密を見てしまう。 この瞬間の加賀まりこの表情は忘れられない。 生きて行くことの辛さと哀しさを少年は初めて知る。 そしてあのラストシーンだ。 原作の宮本輝の小説はこれがデビュー作とは思えない完璧な作品で、映画はこの小説をほぼ踏襲している。 もうじき71回目の終戦記念日がやってくる。 戦争の爪痕を残すこの深い小説の一読を薦める。 と同時に、この映画が一般DVD化され、多くの人の目に触れることを願う。 かずま #
by odyssey-of-iska2
| 2016-07-20 17:29
2016年 06月 30日
5月の連休中、施設にいるMが体調を崩したので、施設と家との間を往復した。 家に戻ってきても何もする気がしないので、ふとTVのスイッチを付けたら、その画面に釘付けになった。 私が前からつくりたいと思っていた空間が目の前にある。 しかも理想とするラフな感覚で。 どこなんだ?ここは?! 行ってみたい!! (だが、後で調べたら、これはドラマのためにスタジオ内につくられたセットで、海辺のドライブインのレストランの外観は実際の漁協倉庫の一部を改良して撮影し、収録後は再び元に戻されたらしい。ガッカリだった) 連休中に再放送を集中してやり、おかげでこの好きな空間を3日間たっぷり味わえた。 と同時に、このドラマ「コントレール」にのめり込んで行った。 物語は、6年前に夫を無差別殺人で亡くし、その後生まれた忘れ形見の子を育てながらどこか虚ろに暮らす主人公の文(あや)と、言葉を無くした孤独でいわくあり気なトラック運転手暸司(りょうじ)との出会いから始まる。実は暸司は無差別殺人の現場にいて、犯人と格闘する際に誤って文の夫を殺してしまい、そのショックで声を失ったのだ。 そうとは知らず、互いに孤独を打ち消すように逢瀬を重ねる二人。だが、やがて秘密は明らかになり、暸司は去る。 この辺りのドラマチックな展開は大石静らしい脚本だし、それを演じる石田ゆり子と井浦新もとても魅力的で、自然と引き込まれる。そして外光で陰影に富むドライブインの内部が映し出され、その度にさらに引き込まれる。 やがて文は無差別殺人を担当し、その後何くれとなく面倒を見てくれた刑事の佐々岡と再婚する。そして暸司とは別々の道を歩むことになるが、さらに波乱は起こる。 最後は元のさやに戻り、ドラマはコントレール(ひこうき雲)のように消えていく。 分別ざかりの無分別を期待した身としては、最後は少し淡々とし過ぎた感は否めないが、これが現実なのかもしれない。 だけど、だから無分別をと思う。 人間には安定性を好むタイプと不安定性を好むタイプの2通りがある。 私は like a rolling stone なので、一つの所に安住することを好まない後者だ。 今まで多くの失敗をしてきた。だけど、だからそれがダメだったとは思わない。 多くの失敗から多くのことを学んできた。だから今日の私がある。 成功か失敗かは結果でしかない。むしろそのプロセスの方が大事だ。 邪念や雑念を抱いておこなった場合は、結果はどうあれ、後悔することの方が多い。 後悔しないためには、邪念や雑念を振り払ってピュアに物事を視るしかない。 そうすれば結果はたとえダメでも受け入れることはできる。 これは人生のすべてに言えることだ。 だんだん話が「コントレール」から離れていった。 石田ゆり子はクセのない女優さんでどこかふわっとした感じが好きだ。 特に10年程前のウィスキーのCM 「女房酔わせてどうするつもり?」 はよかった。(このCMは中野良子のリメイク版だが、石田ゆり子らしさがよく出ていた) 復活してくれるとうれしい。
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by odyssey-of-iska2
| 2016-06-30 21:58
2016年 05月 21日
人の美意識はどのようにして生まれ育つのだろう。 私の場合、生まれた長崎の影響は大きい。また、家族の影響も大きい。時代の影響も大きい。出会った人、本から受けた影響も大きい。 その人本来の、というよりは、環境などの後天的要素が大きく影響して人の美意識はつくられるのだと思う。 だが、普段はそれをあまり意識することはない。 私がそれを初めて意識したのは、30才の時、9ヵ月間ヨーロッパを放浪した時だ。 嫌が上でも自分が日本人であることや日本人特有の美意識を保持していることを感じた。 それなら、日本の美意識が感じられる映画とは何だろう? そう思って考え始めたら、自然と「細雪」('83)に行き着いた。 この映画は大阪、船場の大商家に生まれた四人姉妹の物語で、原作は谷崎潤一郎の長編小説だが、それを昭和13年の春から冬の出来事に絞り、滅びゆく日本の美しさを描いた映画だ。 まず冒頭の、互いの名を「こいさん」(四女・妙子:古手川祐子)、「雪姉(きあん)ちゃん」(三女・雪子:吉永小百合)、「中姉(なかあん)ちゃん」(次女・幸子:佐久間良子)と呼びながら京都の嵐山のお座敷で繰り広げられる、姉妹のゆったりした音楽のような会話に聴き惚れる。この感覚は紛れもなく日本だ。 やがて遅れてきた長女(鶴子:岸恵子)も会話に加わり、それが一段落すると庭に出て花見が始まる。 このシーンは絶品で、映画のすべてが凝縮されたような映像だ。(最後に再び出てくる) 物語は雪子の縁談を縦糸に、妙子の男との騒動を横糸に進むが、そこに芦屋に住む分家の幸子と上本町に住む本家の鶴子とのさや当てや、ごりょうさん(鶴子、幸子)とその婿養子(辰雄:伊丹十三、貞之助:石坂浩二)の微妙な関係が絡み、最後は辰雄の転勤で鶴子一家が東京に出発し、貞之助の回想シーンで終わる。 だが、この映画は物語の筋を追うこと以上に、そこに流れる言葉や間合い、衣装、設い、調度品、風景を楽しみながら味わう映画だ。なぜなら、こうした世界をリアルに体験することは、私達はもうできないからだ。 この小説を谷崎潤一郎が書いてから既に70年、この映画が公開されてから30年以上の月日が過ぎた。その間に日本は戦争で破壊された。このように豪奢で耽美な日本は既にないし、このような映画に今後出会うこともないだろう。 私達はお手軽に京都や奈良に行き、日本を知った気分になる。だが、それは外国人が日本に憧れやってきて、日本を知った気分になるのと本当は大差ない。 日常生活のすべてから日本らしいディテールがなくなって久しい。 そしてそうしたことに危機感すら抱かなくなった。 たぶん、谷崎潤一郎は軍部の台頭に抗してこうした日本の最後の美を書き残したのだろうし、市川崑もこれが最後というタイミングで映画に残したのだろう。 小津の映画にも言えることだが、日本人特有の美意識は、こうした映画や小説の中にしか今は残されていない。 和モダンなどとチンケな流行り言葉で知ったかぶりして日本を消費されたくない。 和は元々モダンなのだ。
もっと本気で日本を愛し、日本人特有の美意識を取り戻したい。 かずま #
by odyssey-of-iska2
| 2016-05-21 19:28
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